技術集団としてのYahooの終焉と、検索業界のこれから

YahooとMSの提携が遂にまとまった。
会社丸ごとの買収から始まり、Googleとの連携までも模索していたが、結局無難な形に落ち着いたようにも見える。

これはのちのちWeb業界の大転換のひとつとなるだろうから、現在の自分なりの考えをまとめてみたい。

まず、MSにとっては一定の価値をもつ結果といえるのではないか。
YST(Yahooの検索エンジン)がMSの「Bing」に取って代わるとのことで、MSはYahooが蓄積してきたノウハウを好きなだけ利用できる。これはBingの開発チームにとって、この上ない武器だ。
金銭面では、Yahoo側にかなり譲歩したようにも見受けられるが、彼らが本気で獲ろうとしているGoogleの牙城に比べれば屁でもないだろう。

一方のYahooにとってはどうか。
Bingを利用した検索広告料の88%はYahooに入ることになっていて(12%は持っていかれるという意味にもとれるけど…)、MSに表示される検索広告の販売権も持っているそうだ。上述の通り、金銭面で見れば決して悪い条件ではないだろう。

これでGoogleを追いかける準備はできた。両社の幹部はそう考えているかもしれない。

しかし、私がこの件で最も懸念しているのは、検索エンジンの開発に携わっていたYahooのエンジニアのモチベーションだ。

検索エンジンのアルゴリズムは、企業にとってトップシークレットである。その詳細は、社内でも一握りの人間しか知らない。
それゆえに、検索エンジンの開発はWebエンジニアの中でも花形だ。警視庁でいう捜査一課、消防隊でいうハイパーレスキューというか、とにかくある種別格の存在である。

彼らのうちの多くがコンピュータ工学を学び、アメリカや世界中の工科大学を首席で卒業するような、超がつくエリートたちだ。

そんな彼らが「打倒Google」を目指して毎日研鑽していた物が「今日で終了」とあっさり打ち切られるのだ。心中いかばかりか。
Yahooには「Search Monkey」や「BOSS」といった検索を利用した先進的なサービスがあるが、それらの開発もすべて止まることになるかもしれない。

そんな優秀な彼らがすぐにお払い箱になる可能性は低いが、逆に彼らの方が荷物をまとめて出て行ってしまう可能性もある。それこそ、Googleにでも。

そして、日本のYahooはどうなるのか。
まがりなりにも国内トップシェアを誇る商品を捨て、あっさりとBingに乗り換えるのだろうか。
「検索エンジン」といえば、今ではWebサービス企業の命とも言えるものだろう。これを自分たちで持っておかず、外部の企業に委ねて本当にいいのだろうか。

実質上のオーナーである孫正義氏は「可能性が高い」と語っているとのことで、現状では乗り換えが規定路線か。

Yahoo! Japanの検索事業部長であった井上俊一氏が、ライバルであるBaiduの社長に就任したのは、2008年のことだった。
今後、日本のYahooのエンジニアの大量退職なんてことも起こるのかもしれない。

「検索を手放す」という決断をしたことで、Yahooは技術企業としては死んだと言えるだろう。彼らは昔のように、テキストやコンテンツを編集するWeb上のメディア集団になるのではないか。
そしてこの大きな決定が、検索以外のサービスに携わっていたエンジニアのモチベーションに影響を与えることは必死だ。検索が切られたのに、自分たちが今作っているサービスが切られない保証はどこにもない。

成功か失敗かは誰にも分からないが、これからの検索業界はGoogleとMSの2つがガチンコでぶつかり合うことになりそうだ(個人的に、Twitterがそこに入り込むのはまだ時期尚早に思う)。

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