「一生懸命働く俺より貧しくいろ」問題について

お笑い芸人の河本さんの親族が、生活保護を不正に受給したという件が世間を賑わせている。
それが果たして不正だったのかどうかは知らないが、少なくとも、感情的な問題の範囲を出ないように思われる。

それにしても、どうしてこれほどまでに多くの人が「河本憎し」となったのだろうか。

ひとつの大きな理由は、日本の経済的な弱体化だろう。

生活保護は税金であり、それを不正に受給することは明確な犯罪である。しかし現状は、その犯罪に対してみなが異常とも言える監視の目を光らせている。

これは紛れもなく「頑張っている自分と同等の生活をする人間許すまじ」という感情であり、弱者が弱者を妬み、嫉む、完全な負の連鎖だ。

ある人が生活保護を受けていると聞いて「自分たちはせめて健康に働ける。もっといい生活になれるよう頑張ろう」と考えるのが健康的な社会だが、今は違う。「それは不正ではないか」と疑い、すきあらば糾弾しようとする。

しかしそれは個人を責めるべき話ではない。いくら一生懸命働いても生活保護程度の賃金しか得られず、将来に渡って明るい見通しすらない現実が重くのしかかっていることが大きい。社会を、国を、そして自分自身をより富めるものにしていこう、という発想になる余裕がないのだ。

そしてもうひとつの大きな理由は、生活保護への無理解だろう。

マスコミの偏向報道のお陰で多くの人が「不正に」受給しているかのような錯覚に陥るが、実際にはその割合は0.4~0.6%程度と言われ、たとえそれが氷山の一角であったとしても、ほとんどが不正だとは考えにくい。

それよりも、むしろ本当に受給すべき人たちができない問題のほうがはるかに根深い。
障害を抱える家族をもつ家庭、肉体的・精神的疾患を持つ人はもちろん、特に現在は母子家庭の貧困が非常に大きな問題となっている(こちらの書籍に詳しい)。

そしてその無理解を示す端緒な例は、日本最大のポータルサイト「ヤフーニュース」において(記事公開時点で)もっとも多くの「そう思う」を集めている以下のコメントだ。

生活保護の審査をもっと厳しろ。年金より生活保護のほうが裕福なんて矛盾している。今のままだと税金や年金なんて払いたくない。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120525-00000022-dal-ent

年金制度と生活保護というまったく種類の異なる、ただ「お金がもらえる」という点しか共通しない福祉政策を比べ、生活保護を叩く。これはおそらく「年金は、たとえ少なくてもいつかはもらえる」からだろう。
破綻することが火を見るより明らかな年金制度は後回しで、目についた生活保護を叩く現状は、とても刹那的で貧しい。

「一生懸命働く俺より貧しくいろ」という要求を解決するためにはどうすべきだろうか。
それには「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と謳う憲法25条を改正して生活保護を廃止するか、その水準を引き下げるしかない。
そしてその動きはもう始まっている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120525-00000108-mai-pol

生活保護の金額が下がることで、日本経済はますます弱体化していくだろう。これはデフレとイコールだからだ。
先に上げた年金制度の他にも高齢者医療制度など、見直すべき福祉制度は他に無数にあるというのに。

もちろん、国の福祉政策はその時の財政状況に応じて変化すべきだ。しかし、それでも生活保護という制度を断ってはならない。

生活保護が打ち切られて餓死するような人が次々に現れることが、どれだけ恐ろしいか。
誰もが生きるのに必死だ。どうせ死ぬのなら、富める者から財産を奪おうとするだろう。日本がそんな社会になるかもしれないことに、想像が及ばないのだろうか。