福島のハゲた青年

今年を振り返ると、やはり3.11のことは外せないだろう。

私には福島に近しい親戚がいる。

幼いころは毎年のように訪れ、年の離れた男の子と一緒に遊んだ。
やれ一緒に遊べ、勉強を教えろと一日中くっついてくる彼が弟のようにかわいかったし、それは今でも変わらない。
色白で、おっとりして誰にでも優しかった彼は、しかし成人してからの数年を自衛隊で過ごし、とても頑健な青年に成長した。

避難区域内ではないものの、原発からそれほど遠くないところに住む彼らは、今もそこで生活をしている。そして福島の現状は、やはり以前とは比較できないほど厳しい。

一度だけ、ちょうど毎日のように福島の話題であふれていた頃訪ねたが、昔はにぎわっていた温泉街もめっきり静まり返り(それでもお客さんはいたが)、応対してくれた仲居さんはこちらが恐縮するほど丁寧にもてなしてくれた。

彼に会ったら尋ねてみたいことがあった。ここを出る気はないのかと。
しかし話を聞くにつれ、彼がどんなにこの土地を愛しているかを知り、ただ「ここを何とかしたい」という気持ちで前を向いているのかを全身で感じ、とてもそんなことは言い出せなかった。

いつ放射能が降りかかるかも分からない土地など一刻も早く立ち去るべきだという考えがある。幼い子供を住ませるのはエゴだという人までいる。
それはそれで正しいと思う。

しかし、幼い頃からその土地で過ごし、友人や家族もたくさんいて、金銭や年齢など現実問題としてそこで生活するしかない人が大勢いる。
たとえそれが「諦め」という感情だったとしても、彼らの選んだ生き方を否定できるわけない。

彼は(本人にとって)残念なことに、頭頂部の毛根のほとんどが死滅した、いわゆるハゲである。実際には数年前からなのだが、「これで放射能のせいだと言い訳できる」といって笑った。強い男に成長したなぁ。