[映画]『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』 マーティン・スコセッシ監督

評点:80点(ただし、ファンに限る)

はじめて彼らのライブに行ったのは、確か98年の東京ドームだった。
元々好きでよく聞いていたが、その圧倒的なパフォーマンスを前にし、電撃にうたれたようになったことは今でも忘れない。

好きでいろんなミュージシャンのライブに行っていたし、それが高じて学生時代にコンサートの会場整理のアルバイトなんかをやったりしたので、国内外のさまざまなライブを観たが、ここまで圧倒的に完成されたものを、少なくとも私は他に知らない。

曲の順序や構成、アドリブ演奏、ライティング、セット、そして観客の盛り上げ方…
すべてが緻密に計算しつくされた、いわば完璧なステージ。これはただのライブじゃない。芸術であり、現存するあらゆる形のエンターテイメントの中でも最高に位置するものなのだと、肌で感じた。

しかしこの映画を観るまで、それは彼らの非凡さによるところが多いと思っていた。何せ、彼らは「生ける伝説」なのだ。

でもそれは少し違った。彼らはセットの細部、例えばスタッフの通用口の位置に至るまで徹底的にこだわり、時期や場所を鑑みて、その豊富なナンバーの中から最適なものを選択し、本番直前まで構想を練っていたのだ。
このような裏側をわずかながら見られただけでも、私としては満足だった。

しかし、困ったのは監督のマーティン・スコセッシだ。何せ本番直前まで曲目すら教えてくれないというのだから(ただ、これはかなり演出が入っているだろう)。
必死の説得も聞く耳持たず、自分たちのスタイルを貫く4人。スタッフ同士が激しくぶつかる。

監督は、そんな自らとストーンズの対比を滑稽に映し出していた。
その手腕はさすがだし、メンバーの魅力を最大限引き出しているあたり、自らもファンだと公言するだけはある。

舞台は、NYのビーコン・シアターという3,000人程度の小さな劇場。
ライブ自体が元米大統領クリントン氏の慈善活動の一環らしく、映画の冒頭では妻のヒラリーなど政財界の大物が訪れる様子が見れる。

しかしその冒頭と、途中で挟まれる過去のインタビューなど以外はすべてライブ映像で構成されている。
マーティンの「よし、行こう。一曲目は?」に続けて始まる『Jumpin’ Jack Flash』のリフで全身に鳥肌が立つ。

2曲目は『Start me up』だが、その後は「超メジャー」ではない楽曲が続く。この辺の選曲センスは編集したマーティンによるものなのか分からないが、結構なコア・ファンも納得だろう。

ステージの間中、止まることなく踊りまくる、ミック・ジャガー。
巧みなスティックさばきがたまらなく渋い、チャーリー・ワッツ。
地味ながらも確実にギターを全うする、ロニー・ウッド。
そして、相変わらず全然演奏しない、キース・リチャーズ。

この4人の格好よさったらない。
ミックとキースは今年で66歳。チャーリーにいたっては何と68歳になるというのに、このパワフルさはなんだろう。
正に、今自分は後世何十年に渡って「伝説のロックバンド」と呼ばれるであろう人たちを観ているのだと、はっきりと確信するできる作品だ。

映画としての出来だが、もし事前に監督がマーティン・スコセッシだと知らなかったら気づかないくらい、おそらく大抵のライブ専門の監督が撮っても同じ程度の映像が撮れただろうと思う。

ただ本番当日は、会場の狭さなど相当な制約があったはずだ。
前述のようにチャリティ活動だったからか、作品内では観客がフラッシュをたいてステージを撮影している姿が散見された。これは通常ではありえないことだ。舞台上の人間の邪魔になるし、肖像権の問題もある。

そんなことが許される、またこのようなライブに招待されること自体、今回の観客は特別な階級の人たちなのだろう。

そういったやむをえない事情は仕方ない。許そう。
しかし、しかし…! 何といっても、チャーリー・ワッツの登場シーンが少ない!あまりにも少なすぎる!!
確かに覚悟はしていたが、あまりにも出ないので段々とストレスがたまった。

カメラ位置の関係なのかもしれないが、バックバンド並みに登場シーンが少ないのはありえない。
確かにミックとキースは格好いい。でもチャーリーの渋さが分からないのか! と一人で憤慨していた。

とにかく、ファンであれば絶対に観ておくべき。映画館だから下手なライブ会場より音もいい。
オールドファンになるほど、笑い泣きしながら観ることになるだろうが。

しかし「Stonesファンでなくともオススメ」なんて気軽なことは言えない。自分がファンであるから見えなくなってしまいがちだが、普通に考えて好きでもないバンドの映画もライブも別に観たいとは思わないだろうから。

彼らは正に「こんな大人になりたかった。でもなれなかった…」と誰もが思う憧れのスターだ。
しかし今度こそ、歳を取ったら今度こそこんな「かっこいいオヤジ」になりたい。そう思わせてくれる4人だった。

やるたびに毎回「これが最後か?」と言われる彼らのライブ。映像を観ると、デビュー当時から言われていたらしいことが分かる(笑)
映画もいいが、やはり本当のライブの一体感と感動には及ばない。

また日本に来ないかなぁ~~

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