[映画]『ミスト』 フランク・ダラボン監督

評点:10点(100点満点中)

DVDで観たものを「映画評」としていいものかどうか、しかも少し前の作品なのでこれまた微妙なのだが、せっかく観たのでレビューを書こうと思う。

しかし、レビュー第一回目がこの作品になってしまったのは非常に残念だ。
はっきり言って、観る価値はない。

あらすじは、ある片田舎に突然原因不明の「霧(ミスト)」が発生。
そしてその霧の中には何やら得体の知れない凶暴な生物がいることが分かり、たまたまスーパーに居合わせた住民はパニックに陥る、というもの。

劇中、ほとんどがスーパーマーケットの中で展開するにも関わらず、グイグイと引き込まれる。このあたりは同じくキング原作の『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』などを手がけてきたフランク・ダラボン監督の手腕だ。メジャー映画の作り方を本当に良く知っているなぁと感心する。

そして、恐怖におびえる群集心理も非常によく描かれている。
当初は居合わせたみんなで協力し合うものの、あまりの恐怖に、皆が一人の狂信的な女性に煽動されていく姿は、やや大げさではあるが(こんな状況になったらこうなっちゃうかもな…)とも思わされた。

もしこの映画が群集心理を描きたかったのなら、現実にはありえないあんな昆虫みたいな生物ではなく、もっとリアルなものの方がよかったのではないか、という違和感は覚えたが、それでもかなり引き込まれて観続けた。

この映画のコピーは「映画史上かつてない、震撼のラスト15分」だそうだが、そりゃそうだ。
こんなひどいラストシーンは観たことがない。

物語というのは、主人公の気持ちがすべて観客に開示されていないといけないと思う。サスペンスで、最後の最後に犯人は実は主人公でした、と言われたらどうしようもない。主人公は観客にウソをついてはいけないと思うのだ。

逆に、最後に死んだ人がすべて生き返りました、という話でもそれが許されるのなら全然OKだし、とにかく、作品中に「絶対犯してはならない価値観」がひとつなくては、物語の軸がぶれぶれになる。

一箇所、そのラストシーンにつながる伏線があるのだが、だからといって「なるほどね」とは思わない。思うわけがない。

スティーブン・キング原作と言えば、世紀の「駄ラストシーン」の『It』(正確にはTVドラマ)という作品があるが、これを観た後ではまだ『It』の方がましだと思える。

双方に共通しているのは、ラストシーンまでは非常に面白いのだ。息をもつかせぬ展開で観客を引っ張り続け、手に汗握って画面から目が離せない。

しかし、最後の最後でドッチラケなのだ。
何なんだと。今までの2時間(『It』は4時間くらいある)を返せと。

『It』の方は単純にくだらないラストだったのだが、こちらの方は基本のセオリーを無視したという意味でもっと罪が重いと思う。
アメリカという国で、このようなラストを選んだチャレンジ精神は認めなくもないが、本国での興行がまったく不振だったというのも分かる。

感情的な面だけではなく、技術的な面でも私はこの映画を肯定できない。

点数の10点は、マーシャ・ゲイ・ハーデンの助演がすばらしかったのと、子役の演技のみ。

[読書]植木等伝「わかっちゃいるけど、やめられない!」 戸井十月

稀代の大スター、植木等。
その晩年、一年間にわたって行われたインタビューを元にしたというこの作品は、非常に読み応えのある「面白い」ものだった。

若い人の中には、名前を知っているという程度の認識の方もいるかもしれない。
しかし氏は、直接的にかかわったザ・ドリフターズなどのみならず、桑田佳祐、ビートたけし、タモリ、所ジョージ、関根勤など彼の姿をみて育った多くの人の憧れの存在であった。

本書は、まず彼に多大なる影響を与えた父の話から始まる。

この父というのが、キリスト教の洗礼を受けながら寺の坊主になり、戦時中に戦争に反対して牢獄に3年入れられたという、まぁ何というかとてつもない人だ。
当時、戦争に反対すれば「国賊」として罵られ、植木自身もそれが原因でさまざまないじめに遭ってきたという。とても常人ではできなかったはずだ。

その時点ですごいと思うのだが、それでいて、家に愛人を上がりこませている間、妻を押入れの中に押し込めておくというのだから、破天荒という言葉では言い尽くせない。

しかし植木は、そうして時に母に手をあげる父を好きになれなかったという。
植木の誰に対しても真摯で生真面目な性格は、それでも「お父さんは偉大な人なのよ」といって憚らなかったやさしい母親に似たのかもしれない。
また、植木が東京の寺に奉公に出されたときのエピソードは、何とも切ない。

やがて、ビジネスパートナーであり、のちに生涯の盟友となるハナ肇や谷啓と出会う。
この辺りの描写はかなり細かく、ファンの方であれば非常に興味深いと思うのだが、驚くのは彼らの若さだ。

植木等19歳、ハナ肇16歳で出会い、さまざまなバンド活動を通じてお互いの実力を高めていく。
「クレイジー・キャッツ」はジャズバンドとしても超一流であることは有名だが、谷啓にいたっては18歳で日本を代表するようなトロンボーン奏者だったというし、才能あふれた人たちの「早熟さ」を痛感した。

徐々にスターダムを駆け上がっていく植木とクレイジー・キャッツだが、それを決定づけたのが、作品名ともなっている「わかっちゃいるけど、やめられない」に代表される「無責任男」時代だ。
それに至る「天才」青島幸男や、すぎやまこういちの話も興味深い。

彼はこれによって人気の頂点を極め、おそらく当時日本一のトップエンターテイナーとなった。

しかし、自身はその「無責任男」に生涯苦悩していたという。本人は酒も飲まない、まじめを絵に描いたような人間だったからだ。
これは今となっては皆の知るところとなったが、当時は「植木等は本当に無責任な男」だと誰もが思っていたのだ。

TV、歌手、映画、舞台とあらゆる仕事をこなす植木。特に映画撮影での古澤憲吾とのエピソードは大変面白い。
例えば、ヘリコプターに繋がれた縄橋子につかまって撮影していたら、本当にそのまま離陸してしまったというのだからめちゃくちゃだ。

植木とクレイジー・キャッツは、TVの創成期を支えたスターだ。
だからこそ晩年、植木は近頃のTV番組の低俗さに不満を呈していたという。彼らは1時間の番組を作るために何日も稽古をしたというのだから、それもうなずける。

適当にカメラを回して、適当なリアクションを面白おかしがる今の風潮は、彼らのようにエンターテイメントを作りこんできた身としては、複雑な気分だったのだろう。

全編を通じて、著者の植木等に対する「愛」があふれているのだが、特によかったと思うのは、植木自身のインタビューをおそらくほとんど編集することなく掲載しているところ。
独特のその言い回しは、何とも粋なものが多いのだ。本人が笑みをたたえながらしゃべっている姿が本当に目に浮かぶ。

そして、同じ時代を生きてきた著名人の名前も数多く登場する。
渥美清、加山雄三、ザ・ピーナッツなど。特に、あの世界の黒澤明を一喝し「小さい男だと思った」というエピソードはとても痛快だ。

数々のエピソードにぐいぐい引き込まれるのだが、個人的に何よりもうらやましいと思ったのは、若いころから70、80の晩年に至るまで同じ道を歩み続け、正に「死ぬまで親友」と呼べる人たちがいたことだ。
もちろん、多くの人は「友」と呼べる人がいるだろうが、こうして「同じ道」を志してそれを全うするというのは非常に稀有ではないだろうか。

真のエンターテイナーとは何か。
それを少しでも垣間見ることができる今作は、ファンならずとも、一人の男の愚直でかっこいい生き方を学べるよい作品だと思う。

唯一残念なのは、周りの多くの人は植木を慕って悩みを相談してきたということだが、彼自身が悩んできたこと、思慮深い彼はおそらく人生のさまざまな場面で深く思い煩ったはずなのだが、そこまで掘り下げられていない点だ。

ただ、泣き言は決して言わず、谷啓をはじめメンバーにすら愚痴をこぼさなかったということだから、彼の本当の心のうちは結局誰も知ることがなかったのかもしれない。
そういった姿がまた、しびれるほどかっこいいと感じる。



日本経済どうすべき? を考えるために、経済学の変遷を超要約してみた

今、世界的に経済環境の転換期といわれている。
市場原理主義は終わったとか、今こそ新自由主義だとか、構造改革あるのみだとか…

経済学は非常に複雑で(多分)正解もないため、断片的に捉えるだけでは分かりにくい。
なので、自分のためにもごくごく簡単に歴史的な流れをまとめてみることにした。

1776年 アダム・スミス「国富論」 経済学のはじまり

    ・市場には常に需要と供給が存在し、そのバランスがうまくいけば「価格」は必然的に決まる。市場には「神の見えざる手」があって、勝手に最適なバランスになるんだ!放っておくのが一番だ!
    ・雇用、金利も同じ。失業なんて発生しない!
    ・市場はすばらしい! だから政府はなるべく経済に介入するな!
    →・政府はなるべく経済に介入するな!でないと、市場のすばらしさが保てない! ※1

 ⇒みんな納得。世界経済は順調に発展

(一方で、1867年にマルクス「資本論」発表。共産主義バンザイ!)

1929年 大恐慌

    「国富論」ダメじゃん!! みんな貧乏になっちゃったよ!

1936年 ケインズ登場

    ・ダメに決まってるよ!だって、供給が超過したからって価格を無限に下げ続けるわけないし、需要が超過したら企業は儲けようとして供給を少なくしたりするもの!自然にバランスがとれるなんて妄想だよ!
    ・経済はもっと広い視野で見る必要があるんだよ(→マクロ経済学の確立)
    ・不況になったら家庭も企業もお金をつかわなくなる。それはごく自然なことだけど、それだとますます不景気になるよ!
    ・だから、不況時には政府が介入して無理やりにでもお金を使いまくることが必要だよ!!
    時のアメリカ大統領、フーバーは…
      「大丈夫だって。市場は勝手にうまいこといくようになってるんだから。だって「神の手」があるんだぜ?」

  しかし、景気は一向に回復せずフーバーは失脚。F・ルーズベルトに交代。

1933年 ケインズの理論を取り入れた「ニューディール政策」を実行

    景気は見事回復!ケインズ最高!
    ※ただし、第二次世界大戦の特需によるものという見方もあり

その後のオイルショックなどで、ケインズ理論にも限界があるのでは?という見方が生まれる。
そして…

2008年 金融危機

    大恐慌以来ともいわれる世界経済の危機に瀕し、大きく2つの考え方に分かれている。

保守派 新自由主義派 ※1

    ・(アダム・スミスの)古典経済主義、市場経済を支持
    ・「小さい政府」を主張。最低限のこと以外は「官から民へ」移譲すべし
    ・規制緩和で競争をさせることが大事。そのための「構造改革」をしないと!
    支持層…富裕層など、市場の勝ち組
    アメリカ…ブッシュ親子、フーバー、レーガンなど
    イギリス…サッチャー
    日本…小泉内閣?など

リベラル派 修正資本主義派 ※1

    ・ケインズ理論を支持。市場経済には限界がある
    ・規制緩和など、いきすぎた競争こそが格差の元である
    ・「大きな政府」を主張。貧困、雇用、格差などにもっと政府が介入すべき
    ・金持ちからもっと税金を取るべし!
    支持層…労働者など、雇用される側
    アメリカ…ルーズベルト、クリントン、現大統領オバマなど
    イギリス…ブラウン
    日本…民主党?など

(一方で「今こそ共産主義!」をとなえる共産党も)

もちろん、これらは「超」簡素にまとめただけで、他にもさまざまな要素が複雑に絡んでくるので、一概には言えない。

小泉さんはいまだに「構造改革」こそが日本を救う唯一の手立てだと主張しているし、その構造改革の旗手であった中谷巌氏は「あれは間違いだった」という本を出してしまった。
それ自体は確かにどうかと思うが、裏を返せば、それほど難しい問題だともいえる。

日本でも総選挙が近いといわれるが、こういった流れを抑えておくと、それに対する自分の考え方もまとまりやすいのかな、と思う。
個人的にも、もっと勉強をして今後の選挙なりに望みたいと思う。

※私は経済学をきちんと学んだ経験がないため、とんでもない勘違いなどがありましたら指摘していただけると大変ありがたいです。
※1 匿名さんのご指摘により、修正させていただきました(2009/2/2)。

元リーマンCEOが14億円の自宅を9千円で売ったそうだ

Diggを見ていたら、興味深い記事があった。

リーマン・ブラザーズ最後のCEO、リチャード・ファルド氏が、保有していた住宅を100ドルで妻に売却したそうだ。
しかも去年の11月の話。

2004年に購入したときの価格が日本円で約14億円だというから、そりゃ破格だ。

ご存知の通り、リーマンの破綻によってアメリカのみならず世界経済は大きな影響を受けた。
会社は直接救済されなかったものの、その後始末のために多額の税金が投入された(る)。アメリカ国民の怒りは当然だ。

しかし彼は曲がりなりにも倒産した企業のトップ。財産も没収されるのが普通なんじゃないか、と思って調べてみると、どうやら「連邦倒産法」という法律が関係しているようだ。

Wikipedia調べだが、債務者(この場合ファルド氏)の全財産はやはり没収されるのだが「除外財産」というのがあるそう。
そして、フロリダ州やテキサス州ではこの除外財産に上限額がない。すなわち、ここに家を建てておけば破産しても取られない、ということだ。

もちろん、ファルド氏の渦中の邸宅もフロリダ州にある。
以前には、O・J・シンプソンも同じようなことがあったそうだ。

何故ファルド氏は、妻にとはいえこんなに格安で家を売ったのか。
あくまで憶測だが、今回の件で多額の損失を被った投資家などに民事で訴訟を起こされた際の対策ではないか、ということだ。

記事の見出しが「mansion」となっていたので、つい日本のマンションを想像して記事を見てみたら、大邸宅すぎて笑った。

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それにしても、その記事に対するDiggのコメントも面白く、

「100ドルだって!? ふざけんな!オレなんて毎月200ドルも家賃払ってんだぞ!」

って、それもそれでうらやましいな。。

ブッシュ元大統領の支持率を振り返る

バラク・オバマが華々しく大統領に就任した。
メディアを見る限りだが、まるで世界に救世主が現れたかと思われるほどだった。

支持率は68%に達し、第二次大戦以降ではケネディ大統領に次ぐ数値だそうだ。

一方で、まるで悪人のように追い立てられ、静かにその座を去ったジョージ・W・ブッシュ。
「史上最低の大統領」と罵られた彼は、しかし「史上最高」の支持率を記録した大統領でもある。
その数字はなんと「92%」。それは、あの9.11の直後だった。

僕は過去を掘り返す暗い人間なので、もとい、過去の失敗から色々と学べるのではないか、ということで、彼の支持率の変遷と主に中東情勢を中心に時代背景をおさらいしてみた。

ミネソタ大学のSteven Ruggles教授のページに興味深いグラフがあった。

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ご覧のとおり、それまで50%そこそこだったブッシュ大統領の支持率は、9.11直後に跳ねあがっている。
あの衝撃的な光景を目にしたアメリカ国民は「テロ組織を撲滅せよ!」と一致団結したのだ。

その後の2002年、「悪の枢軸」発言で特にイラクに対する懸念を明確にしたブッシュは、彼らが「大量破壊兵器を持っている」と断言(結果的にはなかった)、遂にはサダム・フセインに対しイラク戦争を仕掛けた。

再度グラフを見てみると、落ち込んでいた支持率がこの時期にまたもや急回復している。
そして、2003年末のフセインの逮捕によっても(徐々に落ち込み始めているが)支持率が上昇しているのが分かる。

現在のアメリカ国民は、特に「大量破壊兵器」にまつわるブッシュのウソに嫌悪感を示しているように見受けられる。

ブッシュはフセインを殺したかった。だから適当な理由をでっち上げた。それに反対した幹部を更迭してまで。

という感じに。

しかし、2回目の大統領選挙直前の2004年、元財務長官のポール・オニールによって「ブッシュ政権は01年の発足直後から、フセインを世界から抹消するという信念があった」と暴露されたにもかかわらず、ブッシュは二選を果たした。
それを知ってもなお、アメリカ国民は彼に国を預けた。

その後、長引くイラク戦争で国は疲弊し、事態は収束するどころか余計に悪化してしまった。
戦争に資金をつかいすぎたせいもあり、国の債務は大幅に増え、経済状況は悪化し、退任直前にはこのとんでもない金融危機まで置き土産にした。

ここまで揃うと確かに「史上最低の大統領」の評価もうなずける。

ただ、ブッシュの目的が本当に自分の父親の宿敵でもあるサダム・フセインの打倒だとしたら、当時のアメリカ国民もまんざら「おかしい」とは思っていなかったのではないかなぁ、という気がしてしまう。

9.11直後、「仇を討て!」と血気盛んな国民に対し「まぁ、とりあえず落ち着け」と果たしてブッシュ以外の人だったら言えたのだろうか。そしてもし言えていたら、今ごろ稀代の名将として称えられていたのだろうか。

アメリカ国民:ブッシュはウソばかり。大量破壊兵器なんか持ってないじゃないか。
ブッシュ:だってみんながやれって言うから。

こうして支持率の変遷だけ見ると、そんな「学級委員に責任を押しつけるクラスメイト」風に見えなくもない。
果たして国民がだまされたのか、ブッシュがうまく国民を操っていたのか。本当はどっちだったのだろうか。

現在、アメリカ国民はバラク・オバマによるChangeに胸を焦がしているが、あまり過大な期待をかけすぎるのもどうなのかな、と思った次第。

そして、そのブッシュを強烈に支持した小泉政権もまた、日本国民によって高い支持率を誇っていたことも忘れないでおきたいと思う。つくづく、政治を見る目は難しいと感じる。